2015年7月27日
なぜマニュアルは読まれないか?
先日お客様からご相談を受けた際にお話したこととその後で考えたことを追加して記します。
ご相談内容は、社内向けマニュアルがなかなか読まれず情報システム部門への問い合わせが大変多くて困っている、ということでした。他のお客様でもよく聞くお話です。
マニュアルが読まれない原因は主に3つあります。
- マニュアルを読む習慣がない
- 必要な情報がどこに書いてあるか見つけられない
- 読んでもわからない
それぞれの原因について対処方法を考えてみます。
マニュアルを読む習慣がない
この問題がいちばんハードルが高いです。人はマニュアルを読みたがらないものです。マニュアル商売をやっている私自身もマニュアルを読むのは面倒くさいと思っています。マニュアルを読むより知っている人に聞いた方が早いしわかりやすい。この問題に対してマニュアル屋として思いつく対処方法です。
- マニュアルをすぐ手(目)の届くところに置く
- 読むことが楽しいマニュアル(マンガとか)に変える
近くにあろうが読まない人は読みません。マンガとか凝ったレイアウトにするのはコストがかかり過ぎます。マニュアル屋としては開き直ったように受け止められるかもしれませんが、この問題はマニュアル側で解決できる問題ではありません。これは企業のポリシーのあり方だと思います。社員の考え方、習慣、風土をどうやって変えるかということなのです。トップダウンでマニュアルを読むことの重要性を全社員に周知徹底し、その上でルール化します。
- 読むことにインセンティブを与える
- 読まないことに罰則を与える
例えば四半期ごとに問い合わせ件数を集計して件数を減らした部署は表彰する、逆にマニュアルに書いてあるのに問い合わせた部署はその件数を公表するとかです。この問題にはトップが強い意志を持って取り組むのがいちばんです。
必要な情報がどこに書いてあるか見つけられない
マニュアルにとってもっとも重要なことは「目的の情報にたどり着く」ことです。それは読みやすい文章や洗練されたデザインとかより優先されます。どんなに見やすく書かれていても見つけられなければ無意味だからです。したがって、なによりもマニュアルの構成設計が肝となります。その際に意識しなければならないのは3点です。
- 利用者ごとに情報を分ける
- 見出しを具体的な表現にする
- 流れ(作業の順番など)を意識する
利用者ごとに情報を分けるとは自分に関係ない情報は最初から読まなくて済むようにするということです。担当者には担当者だけの情報、管理者には管理者の情報と切り分けます。次に何が書いてあるか想像しやすい見出しを付けることです。「社内LANの設定」では一般のユーザーはピンときません。「社内のネットワークに接続する」などユーザーの立場で何をするかがわかる見出しにします。あと、説明の順番も重要です。よく機能の順番に説明しているマニュアルがありますが、これもユーザーの立場になって作業の順番とか使用頻度の高い順番にした方がユーザーは自分の求める情報がどのあたりにあるか想像しやすくなります。
下の図は以前「日経SYSTEMS」という雑誌に取材を受けたときに説明したマニュアル構成の改善例です。
読んでもわからない
最初に言ったとおり人はマニュアルはできるだけ読みたくないと思っています。したがってできるだけ読む負担を軽減することが重要です。読んでもわからない主な原因は以下のとおりです。
- だらだらと長い文章で書かれている
- 図表が少ない
- 情報のメリハリがない
「簡潔に誰が読んでもわかる文章を書く」はテクニカルライティングの基本です。あと実際の物(画面、写真など)を見せる、作業の流れはフロー図にする、文章よりも表にまとめて整理するなどです。そして情報の切り分けを明確にします。概要、作業手順、注意事項、ヒント、参照など、小見出しやレイアウトを工夫してどこに何が書いてあるかパッと見ただけでわかるようにします。そうすれば、必要なところだけを拾い読みすることができます。このようにしてできるだけ読む負担を軽減します。
繰り返しますが、マニュアルはできるだけ読みたくないものです。声を上げて笑いながら読めるとか、おもしろくて気がついたら徹夜で読んでた、などというマニュアルはありません。たかがマニュアル屋ができることは、仕方なく読まざるをえないときにできるだけ読む負担を軽減してあげることです。